岡山地方裁判所 平成元年(ワ)409号 判決 1991年8月26日
原告
小林博光
被告
稲荷交通株式会社
ほか二名
主文
一 被告らは連帯して、原告に対し、金一九七万二七八〇円及び内金一七九万二七八〇円に対する昭和六三年六月二六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを四分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。
四 この判決第一項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは原告に対し、連帯して金九〇七万一三〇〇円及び内金八二五万一三〇〇円に対する昭和六三年六月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、タクシーの助手席に乗つていた乗客が、タクシーと他の自動車の衝突により傷害を負つたとして、タクシーの運転手に対しては民法七〇九条により、タクシー会社及び自動車の運転者に対しては自賠法三条により損害賠償を請求した事件である。
一 争いのない事実
昭和六三年六月二五日午前〇時頃、岡山市浜五九七番地の七先道路上の交差点において、原告が乗車中の被告今本運転のタクシーと被告中山運転の車両が衝突した。
被告今本、同中山には左右の安全不確認等の注意義務違反があり、また被告中山及び被告稲荷交通株式会社は加害車両の各保有者である。
二 争点
被告は、因果関係、後遺障害及び損害を争う外、原告にシートベルト不着用の減額事由があると主張している。
第三争点に対する判断
一 原告の受傷内容と治療経過について
証拠(甲二ないし一〇、一一ないし一八の各1、2、二〇の1ないし5、二五、乙一、検乙一、二の各1ないし3、証人永田、被告今本、同中山、原告)によれば次の事実が認められる。
1 本件事故の態様は、交差点を北進していた被告今本運転のタクシーの左後部バンパー付近に、交差点を東進していた被告中山運転の車の左前部前照灯付近が衝突したこと、事故当時原告は右タクシーの助手席に、原告の妻が後部座席に乗つていたが、誰も怪我をしていないとのことで、本件事故は物損事故扱いとなり、原告は妻とともに事故現場から家に歩いて帰つたこと、
2 原告は、項部痛、背部痛を訴えて事故の二日後の昭和六三年六月二七日万代外科に行き、そこで頚部捻挫、背部・腰部打撲と診断され、消炎理学療法、薬物療法がなされたこと、原告は右外科に六月は四日間、七月から一〇月までは月一七ないし二五日間通院し、同様の治療及び運動療法を受けたこと、原告の症状は一進一退であつたが、一〇月頃には原告の背部痛が軽減したので、一一月からは週二~三回の理学療法で足りることになり、原告は同月から平成元年四月まで月七ないし一二日間同外科に通院し、同年五月八日治療中止となつたこと、
3 原告にはレントゲンによる頚椎、胸椎、腰椎の異常は認められず、自覚症状は項部・背部、腰部痛であつたが、原告は自賠責保険の後遺障害の認定手続きをしていないこと、また万代外科の医師は、昭和六三年一〇月一八日付回答書で、原告は就労可能であり、原告の症状は日常生活に特に問題がない旨回答し、保険会社の社員に対し、原告は事故後三か月で就労が可能であると述べていること、
右認定の原告の通院状況、治療の内容、医師の意見等の事実に徴すると、原告の症状は、遅くとも昭和六三年一〇月末日をもつて固定したと認めるのが相当である。
二 損害(請求額八二五万一三〇〇円)
1 通院交通費
証拠(原告)によれば、原告の家から万代外科まで徒歩で五~六分の距離であり、原告は徒歩や自転車で通院していたことが認められるから、通院交通費は認められない。
2 休業損害 九九万二七八〇円
原告は、本件事故後一一か月休業した旨主張するが、前記認定の事実によれば、原告の休業期間は三か月が相当と認められるところ、証拠(証人小林幸治、原告)によれば、原告は小林組の名称で一般土木の仕事をしていること、従業員は原告及び息子を含めて六名であること、原告の主な仕事はユンボの運転操作や仕事の段取り、入札であること、原告休業中も小林組の仕事は続けられていたことが認められ、原告の症状は他覚的には異常はなく、自覚的症状が主であり、多分に心因的要素も寄与していると認められるから、右事実に原告の仕事の内容、通院状況を考え併せると、本件事故と相当因果関係にある労働力喪失の割合は、八〇パーセントと認めるのが相当である。
しかして右期間の原告の収入を認めるべき証拠はないので、本件事故当時原告は四九歳であつたから、昭和六三年度の賃金センサス産業計全労働者の同年齢の年収は四九六万三九〇〇円であることが認められるので、これに基づいて計算すると、休業損害は九九万二七八〇円となる。
4,963,900÷12×3×0.8≒992,780
3 後遺障害による逸失利益
原告は、一四級相当の後遺障害がある旨主張するが、前記認定の原告の症状からすると、原告主張の後遺障害があるとは認められない。
4 慰藉料 八〇万円
前記認定の諸般の事情を考慮すると、八〇万円が相当である。
三 損害額の減額事由
被告は、原告が本件事故当時シートベルト不着用であつたから、損害額を減額すべきだと主張するが、シートベルト不着用により、原告の損害が増加したことを認めるに足りる証拠はないから、被告の右主張は採用しない。
四 弁護士費用
本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は一八万円が相当である。
(裁判官 將積良子)